本稿は『欧州の小国が示した「生き残り戦略」─ 通貨・主権・金のリアル』(https://www.youtube.com/watch?v=ll15eDitzqo)の内容と各種補足報告から再構成した資料です。
[欧州の小国が示した「生き残り戦略」─ 通貨・主権・金のリアル]
ハンガリーは今、大国に睨まれながらも自国の主権をどう守り生き残るかを模索しています。移民政策、外交姿勢、資産の持ち方。これは決して遠い国の話ではありません。実は今の日本にもそのまま当てはまる示唆が含まれています。今回、その構造を整理して見ていきたいと思います。連鎖的に揺れる地政学です。EU内部の例外的な存在として主権重視路線を貫いてきた、中央の要衝となっています。西と東への架け橋として重要な役割を果たしてきた戦略的パートナーとなっています。その他にも欧州の地政学的バランス、EU統合と国家主権の間で揺れる価値観の対立の最前線にあります。そして金、通貨、資源の流れ、ドル・ユーロ体制からの距離を測る新たな地政学の象徴です。これらが連鎖的に揺れている状況になっています。
ハンガリーという国の立ち位置を見ていきたいと思います。ハンガリーはEU加盟国です。しかしながら、EUの価値観に強く抵抗してきた例外的な存在でもあります。内陸国であり、中欧EUなどに加盟しています。しかし、政策は国家主権最優先を貫いているんです。この矛盾が全ての出発点です。中央に位置するハンガリー、地理的には欧州の中心にありながら、政治的には欧州統合の理念から距離を置き続けています。EU加盟国としての義務と国家主権を守るという信念の間で独自の道を歩んできました。人口は約1000万人、GDPも約1800億ドルの小国。なぜEUと対立し続けられるのか、その答えは明確な政治的意思と戦略的な外交バランスにあります。
移民を受け入れないという明確な選択です。2015年以降、ハンガリーは難民・移民をほぼ拒否する政策を開始しました。そして国境フェンスを設置、物理的な障壁を構築し、不法入国を防止してきました。そして政府としては不法移民をゼロというこの方針を公式に明言し実行し続けています。結果としてどうなっているでしょうか? 西側で起きたような大規模な暴動、治安崩壊は起きていないんです。ハンガリー国内の犯罪率は比較的低く抑えられ、社会的な安定が維持されている状況です。一方で、EUからは人権・法の支配に違反していると厳しく批判されています。欧州委員会は繰り返しハンガリーの移民政策を問題視し、法的措置を取り続けているんです。この治安とEUルールを天秤にかけ、治安を取った国、それがハンガリーなんです。
そしてこの国内の治安を優先した結果、EUからの制裁金という現実です。EU司法判断です。難民受け入れ拒否はEU法違反として認定されました。欧州司法裁判所はハンガリーの移民政策がEU法に反すると明確に判断したんです。その結果の制裁措置、高額の制裁金プラス日額の罰金が課されています。一度だけではなく継続的な罰金が課され、財政的な圧力が増大しています。EU側の論理はこうなんです。ルールを守らないなら加盟国でいる資格はないと。EU統合の基本原則は全ての加盟国が共通のルールを遵守しましょうよというところにあります。そしてハンガリー側の論理はこうです。国境管理と治安は国家主権の問題である。外部からの強制は主権侵害そのもの、国民の安全を守る権利は国家固有のものであるというところです。この価値観の衝突が制度の衝突に変わりました。
そしてこのハンガリーを率いるオルバン政権の思想と政策の一貫性です。政権を率いてきたのはヴィクトル・オルバン氏です。特徴は一貫しています。まず反移民、国境管理と文化的アイデンティティの保護を最優先課題として掲げ続けています。そして親ロシア、エネルギー安全保障の観点からロシアとの関係を維持、対制裁に慎重な姿勢を通っています。そして親中国、一帯一路構想に積極的に参加し中国からの投資を歓迎してきています。その中には反グローバル主義があります。国際機関や多国籍企業の影響力を警戒し、国家主権の重要性を強調しています。その他にも食文化の保護があります。伝統的な農業と食文化を守ろうとしています。外部からの文化的影響に抵抗しようとしているんです。こういった姿勢から、バイオニック・フェイク肉への強硬姿勢も発表されています。バイオニックの流通を否定する。ハンガリー政府はバイオニックの販売や流通を認めない方針を明確にしています。これは明らかに国民の健康を重視しているからです。自然な食品こそが健康の基盤であるというこういった立場を堅持しているんです。そして伝統農業の保護です。何世代にもわたって受け継がれてきた農業の価値を守ろうとしているんです。食の主権確保です。何を食べるかを決める権利は国家と国民にあるという原則を守っているんです。この「ビル・ゲイツの肉」を禁止にするというこういった表現は政治的メッセージですが、反グローバル食料モデルという姿勢は本物です。思想と政策が揺れていない本物の政治家と言えます。
オルバン首相のこの政策というのは、単なる政治的パフォーマンスではなく、一貫した世界観に基づいています。グローバル化に対する懐疑、伝統的価値観の重視、国家主権の絶対視、この3つの柱が全ての政策決定の基盤となっているんです。
ここで少し触れたいのが、このバイオニック・フェイク肉についてなんですけれど、これはバイオニック(培養肉)にビル・ゲイツが投資している、そして気候変動対策として先進国は合成肉に移行すべきと発言してきました。つまりビル・ゲイツ自身は製造者ではないんですけれど、思想と資金の象徴的な存在になっています。なので、こういったソーシャルメディア・政治の文脈では「ビル・ゲイツのフェイク肉」というこういった短縮表現が使われます。なぜこれが各国で政治的な問題になっているのか、ここがポイントなんですけれど、フェイク肉を支持している側の理屈としては家畜由来の肉を削減しましょうよと、環境負荷じゃないですか。将来の食料危機対策にもなりますよと言っています。ですが、ハンガリー側の反対派としては、長期的な安全性が不明、食文化・農業の破壊につながる、食料を巨大資本と技術に依存する構造には疑問が持たれる。誰がコントロールするのか。こういった問題を提起しているんです。これは味の話ではなく、主権の話なんです。
そしてハンガリーといえば金です。見逃せない金の動きを見ていきたいと思います。ハンガリーの金保有量はどの程度あるんでしょうか? 2010年代の前半ではわずか3トン前後の金準備高しか保有していなかった背景があります。そして2018年前後に31.5トンへと5倍まで増加、本格的な金買い増しが始まりました。2021年には110トンに到達、驚異的なペースでの積み増しが続き、そして2025年11月時点では変わらず約110トンを維持しているという状況です。このハンガリーの金準備高、147億ドル相当、約110トン、以前から継続的に買い増しが行われています。ハンガリー中銀が金を購入し、通貨フォリントの価値の裏付けとしての役割を強化。金価格はフォリント建てで変動、金現物市場も存在します。
なぜハンガリーは金を増やしたんでしょうか? 2010年代から比較すると、金の保有量は約30倍以上となっています。人口・経済規模から見ると、この110トンという保有は明らかに多い水準と見えます。公式見解としては、金は信用リスクを伴わない国家の最終資産、中央銀行は金を究極の安全資産として位置づけています。さらに現実的な意味としては、EU制裁リスクから回避するための最終的な資産。通貨フォリントの脆弱性を補うための存在。地政学的なリスクヘッジを考慮した上での保有。誰にも凍結されない資産。これを積み上げているというところです。これは純粋な投資というわけではなく、ハンガリー国の覚悟の表明とも見て取れます。ハンガリーの金買い増しは単なる資産運用ではなく、EUとの対立が深まる中、いつ経済制裁・資産凍結が行われるか分からない状況で、誰の許可も必要としない、誰にも止められない資産を確保する戦略的な動きとなっています。金は物理的に存在しています。デジタルで消去されることもありません。国際的な金融システムの外側に存在する究極の保険とも言えるんです。
そして中国、ロシアと共通する行動です。中国も世界最大級の金保有国として継続的に準備高を増やしています。ロシアも制裁への備えとして金準備を大幅に増加させてきました。トルコも通貨リラの不安定性に対抗するため金保有を強化しています。ハンガリーも小国ながら、戦略的に金準備を急速に積み上げている。これは欧米主導秩序への不信です。既存の国際金融システムに対する懐疑的な見方を共有している。そして制裁リスク、経済制裁や資産凍結の可能性に備える必要性を認識しています。主権の重視です。国家主権を最優先し、外部からの干渉を拒否することができるという、こういった姿勢を示しています。金=ドルやユーロから距離を取る手段です。これらの国々にとって金の保有というのは、単なる資産運用ではなく、西側主導の金融システムからの独立性を確保するための戦略的な選択です。ドルやユーロは発行国の政策に左右されますが、金は誰の管理下にもない普遍的な価値を持つ資産となっています。
そしてハンガリー総選挙が約3ヶ月後に控えています。与党はオルバン率いるフィデス。2010年以来、圧倒的な議席数で政権を維持しています。世論調査では与党が現在劣勢または苦戦していると報告されています。親EU・欧州統合派が政権を取る可能性が現実味を帯びそうです。もしこの政権交代が、もしこの政権交代が実現した場合、親EU路線への転換が予想されます。そして対中・対ロシアで距離が発生します。中国・ロシアとの緊密な関係が見直される、一帯一路からの離脱。中国の戦略的プロジェクトから事実上撤退する可能性があります。この選挙は単なる国内政治の問題ではない。国の方向性が変われば、欧州全体の地政学、中国の一帯一路構想、そして東西の勢力図が大きく変わる可能性があります。小国の選挙が国際秩序に大きな波紋を投げかけようとしているんです。
これによって一帯一路への波及、各地で詰まり始めているように見えます。まずベネズエラです。政情不安により中国が大規模に行った融資が回収困難となると、中国からの巨額の融資が焦げ付き、プロジェクトが停滞しています。そしてイランです。制裁で公式拡張が不可、国際的な経済制裁により一帯一路の正式な拡大が困難な状況となっている。そしてハンガリーです。欧州側の窓口が揺らぐと、EU内部で中国に友好的な数少ない国の1つが転換を余儀なくされる可能性があります。欧州内部の協力国を失えば、象徴的なダメージは大きいと見えます。ハンガリーは中国にとって欧州への重要な入り口となっていました。ブダペスト‐ベオグラード鉄道プロジェクトを始め、多くの一帯一路関連事業がハンガリーを経由しているんです。この戦略的拠点を失うということは、中国の欧州戦略全体に影響を与える可能性があります。
これまでのハンガリーの戦略的バランスです。中国への依存を利用してきました。経済的な利益を得ながら、EUへの交渉カードとして活用してきたと見えます。そしてアメリカ・NATOとの関係維持です。安全保障の傘は決して手放さず、最終的な保険として確保しています。そして最悪の事態に備えて、金、つまり凍結されることのない資産を積み上げ、究極の保険を用意した。中国への依存を利用し、アメリカとの関係は切らず、最悪の事態に備えて金を確保してきた国。そして今回、選挙をきっかけに中国側に立つ役割を終え、米国・ヨーロッパ側に回帰される可能性が出てきているという状況です。このバランス外交は小国が大国間の対立の中で生き残るための戦略と見えます。しかし、そのバランスが今崩れようとしているんです。
静かな戦果です。これは中国の一帯一路にとって欧州での後退を意味し、米国にとっては静かな勝利。これらを意味しているようにも見えます。ハンガリーでの政権交代は、派手な軍事衝突や経済制裁ではなく、民主的な選挙という形で実現する可能性があります。これは西側にとって理想的なシナリオと言えます。武力を使わず、犠牲を出さず、単に民意によって中国の影響力を削ぐことができると。一方で、中国にとってはヨーロッパにおける重要な窓口を失うことを意味します。一帯一路構想の象徴的な成功例の1つが静かに消えていくという可能性があります。
未来を一つに決めていない国、ハンガリーは中国に近づきながらもアメリカとの橋を壊さず、その間で金を積み上げている。金を110トン持つ国は、未来を一つに決めていない国です。もし国が保険をかけるなら、それは通貨でしょうか?同盟でしょうか?それとも金なのでしょうか?通貨は発行国の政策に左右されます。いつでも価値が変動します。デジタル化された現代では一瞬で凍結される可能性もあります。そして同盟は政治的な関係性に依存、政権交代、国際情勢の変化で簡単に崩れる可能性があります。対して金は物理的に存在し、誰の許可も必要としない。誰にも凍結されない。3000年も価値を保ち続けてきた究極の保険です。
このハンガリーの選択が、不確実な世界で生き残るための戦略を示しているように見えます。大国の間で揺れ動きながらも、最終的な保険として金を積み上げる。これは地政学的な嵐の中で、自らの運命を自らの手に留めようとする国家の姿と見えます。
振り返ってみると、日本はどうでしょうか?同盟、通貨、移民、食料、そして資産。私たちはそれぞれについてどこまで自分で決められているでしょうか?そして日本は今、何を準備している国なのでしょうか?
最後までご視聴いただきありがとうございました。引き続き最新の情報をお届けしてまいりますので、是非高評価とチャンネル登録をよろしくお願いします。